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煙の怪物

 

初めて吸った煙草はガラムだった。

 

大学の喫煙所で、ひげもじゃの先輩にもらった。うまく火がつかなくて、なにが美味しいのかわからなかった。口の中にずっと残る煙たさが不愉快だと思った。

 

絶対に喫煙者にはならないと思った。

 

 

人生のすべてが嫌になったとき、文学に傾倒した。高校生の頃に読んだときは意味がわからなかった「人間失格」がスッと心に入ってきた。ゴールデンバットを買った。両切りだったので口の中に葉が入ってきた。鬱陶しかった。捨てようと思った。

 

「これが美味しいと感じたら一人前」と教えた人がいた。何箱も吸った。

 

 

途中でブラックデビルを吸った。煙もフィルターも甘くて、こっちのほうがずっと美味しいと思った。

 

 

出会った人が吸っている煙草を片っ端から吸った。恋をする度に煙草を変えた。

 

 

いつかの冬、キャスターを吸っていた。元旦の青空に昇っていく煙が甘くて心地よかった。一生吸い続けようと思った。片想いだった。

 

 

「甘い煙」を書いた。

「さみしい国のおうじさま」を書いた。

 

 

誰からも影響されていない煙草を吸わなければと思った。しばらくPEACEを吸った。久しぶりにキャスターを吸ったら甘ったるかった。

 

 

「冷夏」を書いた。

 

 

刹那的な愛で汚れていく肺が、いまのわたしに酸素を巡らす。愛されたいと煙を吐く。愛したいと煙を吸う。

 

 

それから何度も煙草を変えた。自分で見つけたものも、誰かが吸っていたものも。

 

 

ある日ある場所で、再会を果たした人がいた。わたしの煙草が変わっていることに寂しそうな目をしていた。なぜまだそんな目をするのかと不思議だった。もう会わないと決めた。

 

 

わたしを愛したら煙にされるぜ、やめときな。

 

 

わたしはきっと、愛の本質を貪る怪物だ。

 

 

いまはただ、好きな映画に出てきた煙草を吸っている。それでいい。それがいい。