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ゴリゴリの実

 

肩こりが限界を超え、根本から改善しようと通い始めた整骨院を半月でやめた。

 

これといって大きな理由はないけれど、「仕事は在宅でデスクワーク。勤務時間は夕方からなので昼間に来院している。」という設定に辻褄を合わせるのが面倒になった。「今日は少し遅めですね。おやすみですか?」「あ、今日はちょっとだけ今から仕事で、、」「どんなお仕事なんですか?」「画面に向かって喋ってます、、」といった具合だ。てんで誤魔化せていない。無理がありすぎる。加えて整体師は固定ではないため、途中で担当者バトンタッチの儀が行われると初めから同じデタラメを辿らなければならない。

 

パーテーションで区切られた診察台1台分のスペースが6つほどある、こぢんまりとした整骨院。「配信してます!」とついに大声で白状したのは他の誰でもない、わたしだ。「もしかしてイチナナ?そこならまだアカウントがあるから、みにいくよ。IDは?」

 

その後、隣のスペースで施術していた整体師さんからも「さっき聞こえちゃいましたよ〜。」と言われ、でっち上げた在宅デスクワーク女の虚像は砂のように散ってしまった。

 

患者として住所も本名も明かしているため、自意識過剰と言われてしまうかもしれないが、根暗人間は警戒レベルを4に上げた。だからといって、IDを明かすことを断ると骨を悪い具合に接続されるのではないか。帰り際に渡されたメモ用紙には推しマークまでしっかりと書き残した。それ以降は一度だけ行ったものの、なんとなく気が引けてきて、特になんともない上記の理由が重大なもののように思われてきてパッタリとやめてしまった。セールストークだったのか心の緊張をほぐそうとしてくれたのか、きっと悪気はないのだろう。ただ、この根暗人間が修得している処世術ではどうにも太刀打ちできなかった。

 

まるで快活な人間かのように振る舞ってはヘタをこく。だからといって傍若無人に振る舞ったところであとから自責の念に駆られて赤面する。まるでヘンテコだ。

 

そんなことがあり、しかし依然として肩と首はゴリゴリと文句を垂れてくる。どうしたものかと肩を回しながらカーテンを開けると、絵に描いたような秋晴れ。窓を開けると秋の風。少し金木犀の香りも漂っている。年季の入ってきたマシーンで珈琲を淹れ、買い置きのパンをかじる。

 

よし、マッサージへ行こう。

 

当日予約可能なマッサージ店を見つけだし、1時間半後に予約をいれる。全身のマッサージと脚の踏みほぐしプランを選択。予約時間の10分前には周辺に到着し、お店があるビルを見上げた。暗い。宇宙を感じさせるような色合いの看板に、予約したマッサージ店の名前が書かれている。周りを気にしながら、コンクリートの階段を登る。

 

お店の扉を開くと、カタコトのイラッシャマセーでお迎えしてくれた。予約確認から施術開始まで3分もかからなかった気がする。

 

肩と首のゴリゴリを聞きながらウトウトしていると「おネイサン、痩セテル。アタシ踏みほぐしデキナイヨ!シンパイ!」と言われ、ふたりでケラケラ笑った。

 

終了のタイマーが鳴り、ロビーで靴を履いていると肩を支えてくれた。シンパイされている。出口の前ではリュックまで背負わせてくれた。とてもシンパイされている!

 

軽くなった体で暗いビルを後にする。当初の不安はまったくなくなっていた。流暢な日本語にドギマギした心が、カタコトな日本語にホッコリしていた。

 

帰りにスーパーでシソ餃子を買った。今夜はたくさん食べよう。